RBSはこんな用途に便利な手法です

ラザフォード後方散乱分析(Rutherford Backscattering Spectrometry:以下RBS)は、He等の軽いイオンをMeV程度の高エネルギーに加速して固体に照射し、固体元素の原子核により後方側に散乱されたイオンのエネルギーを測定することで、固体中に含まれる原子の組成、量、深さ方向分布を調べることが可能な手法です。EAGの「バブルチャート」、及び、「各種分析手法と情報深さの関係」より、RBSの観察領域は1cm角程度の領域が必要であり、深さ方向の情報としては、表層より1um程度までの、いわゆる薄膜の分析に適していることが分かります。 またRBS分析の特徴としては、①非破壊で深さ方向の組成分析が可能、②定量に標準試料が不要、 ③結晶性(研磨ダメージ、イオン注入ダメージ、結晶欠陥、格子不整合)評価が可能なことが上げられます。 薄膜中の組成を正確に定量できることから、金属膜、半導体膜、絶縁膜などの分析に応用されています。
更に、RBS装置では前方散乱を用いてHの分析を行うことができます(HFS(ERDA))。 RBS(及びHFS)で分析に用いられる材料を下記に示します。材料の組成調査に加えて、成膜中に取り込まれるArやCl等の不純物も高感度に検出可能です。

薄膜材料(RBS)

炭素系、酸化物/窒化物系材料 DLC, TaC, IGZO, STO, HfO, TiN, TaNなど
太陽電池系材料 a-Si:H, CIGS など
化合物半導体 III-V, AlGaN, AlGaInN, SiGe など
合金・金属系材料 GST, PZT, SBT, AlCu, TiW, PtMn, IrMn, NiPtなど
シリサイド TiSi, CoSi, NiSi, WSi, PtSi,など
イオン注入ドーズ量評価n Si基板中のAs注入、Si基板中のSb注入など

RBSスペクトルの見方について

RBSスペクトルは、MeVの高エネルギーの入射イオン(He+)が固体中の原子核によって後方散乱されたときのエネルギーを横軸、その収量を縦軸として表示します。横軸が示す散乱エネルギーには、元素の種類と深さ情報が含まれます。 試料中の同じ深さに2種類以上の異なる質量の元素が存在すると、それぞれ異なるエネルギー値にカウントされます。また、同じ質量の元素でも深さ位置が異なると、異なるエネルギー値にカウントされます。縦軸の収量は、質量の重い元素ほど大きくなります。すなわち高感度です。しかしながら、重い元素ほど質量分解能が悪くなりますので、例えば、WとPtでは両者を区別することができません。

RBSは非破壊で組成分析ができる特徴がありますが、実際のRBSスペクトル(実験データ)と理論スペクトルのフィッティング解析から組成を決定しますので、事前に試料の情報(材料名(構成元素)、試料構造)がないと、理論スペクトル(試料構造を仮定したスペクトル)を描けないので解析が困難になります。例えば、材料がPtシリサイドなのかWシリサイドなのか、事前に材料名がわからないと組成を決定することができません。このように、RBSスペクトルの見方とその意味を知ることで、RBSから得られる情報の質を理解することができます。

各種元素の相対 散乱強度と散乱後のエネルギー

固体中のどのような元素から散乱されたかについては、エネルギーと運動量保存の法則から知ることができます。入射エネルギーE0で入射した粒子は、散乱によりK・E0のエネルギーで検出されます(K:散乱定数)。Kは衝突する対象原子に依存するため、散乱後のエネルギーを調べることで元素の同定が可能となります。
下図にHeイオンを2MeVで入射した場合の対象元素の違いによる散乱後のHeイオンのエネルギーと相対散乱強度を示します。重い元素ほど、入射イオンのエネルギー損出は少ないため、高エネルギー側に検出され、散乱強度も大きいことがわかります。
各種元素の相対 散乱強度と散乱後のエネルギー

エネルギー損失の原理

損出エネルギーは散乱が生じる深さに依存するため、同一元素からの散乱では、より深部で散乱されたイオンほど低エネルギー側から検出されます。入射イオンが材料中を通過する場合のエネルギー損出が含まれるためです。

試料表面および内部での衝突について

試料表面および内部での衝突について

RBSデータの解説

Pt on Si data
Si基板上のPt薄膜を分析したRBSスペクトルを下記に示します。 PtはSiよりも質量が大きいため、散乱によるエネルギーの損出が少なく、高エネルギー側から検出されます。(図に示されているチャネルナンバーはエネルギーに対応しています)。 Si基板から散乱されたHeイオンのエネルギーは、Pt膜中でのエネルギー損出分が含まれているため、Ptがない場合のSi表面から散乱されたエネルギーよりも、さらに低エネルギー側から検出されていることがわかります。 補足となりますが、Si基板からの散乱強度が低チャネルになるほど上昇している理由は、図中の微分散乱断面積の式より、Heイオンのエネルギー損出の割合が大きくなるほど分母の値が小さくなるため、微分散乱断面積の値が大きくなり、深さ方向に均一の組成であっても、RBSスペクトル強度が増加していることが理解できます。

SiO2 on Si data
次の図では、Si基板上のSiO2薄膜を分析した事例を示しています。
表層のSi、Oによって散乱されたHeイオンのエネルギー位置は、入射イオンのエネルギーと散乱角から決定され、スペクトル中のSi surface、O surfaceとして検出されます。
OはSiより質量が小さいので、SiO2中のOのスペクトルはSi基板のスペクトルに積算されて表示されます。

Si基板では、基板の内部から散乱されるほど収量が増えるので、Siの強度は一定にはならずに低エネルギーになるほど上昇していることがわかります。

RBSによる分析事例

Si基板上に成膜したTaN膜の組成分析事例を下記に示します。
TaとNの組成比は、それぞれTa : 44atomic%。N : 55atomic%程度であることが分かります。
また、膜中より0.7atomic%程度のArを検出しております。

RBSによるTaN膜分析

Si基板中に注入されたSnのイオン注入量評価の分析事例を下記に示します。
Snスペクトルの面積密度より、Snのイオン注入は、「6.1E13 atoms/cm2」であることが分かります。
RBSでは構成原子の物理量(散乱確率)がほぼ完全に分かっているため、標準試料を用いることなく絶対定量が可能であるため、イオン注入量の評価に応用されています。

RBSによるSnイオン注入試料分析

RBSは標準試料が不要なため、イオン注入試料の正確なドーズ量を求める事が可能
イオン注入によってSi基板中に生じたダメージについて、イオン注入後とアニール後で比較した分析事例を下記に示します。イオン注入後の試料では、結晶中にダメージが生じているため、後方散乱量(図中青のスペクトル)が大きい結果を示しています。一方、イオン注入試料にアニールを行うことで、後方散乱強度(図中赤のスペクトル)が低下しています。後方散乱への寄与が少なくなったことから、結晶状態が回復しているようすが分かります。

イオン注入によるSi基板のダメージ 分析例

イオン注入後の試料とアニール処理を行った試料のチャネリングスペクトルを比較することで、アニール処理による結晶性の回復状態を評価することができる

RBS装置でも水素の分析が出来ます

RBS分析では、MeVの高エネルギー入射イオン(He+)を固体に照射するため、Heよりも軽い固体中の水素(H)は前方側に散乱されます。前方側にはHと同時にHeイオンも散乱されるため、アルミ箔等を検出器の前に置くことでHのみを分析することが可能です。この手法は、前方側へ散乱されるHを検出することから、HFS分析(Hydrogen Forward Scattering Spectrometry)と言います。 原理的には、入射するイオンより軽い標的原子は前方側へ反跳されるので、入射イオンを変えることで、H以外の軽元素分析が可能です。このような分析方法を包括的に、反跳粒子検出法(ERDA:Elastic Recoil Detection Analysis)と言います。ここでは、Heイオンを用いてHを分析するHFS分析について紹介します。 HFS分析では、Heイオンにより前方側へ散乱されたHのエネルギーとその収量を直接検出します。そのため、半導体、金属、絶縁物、ポリマー等様々な薄膜の分析が可能です。またRBS分析と同様に、入射イオンにより散乱されたHが固体中を進む時のエネルギー損出を精度よく求められるため、非破壊で絶対量の測定と深さ方向の分析が可能です。RBS分析の定量に標準試料は不要ですが、HFS分析では、Si中にHをイオン注入した試料と濃度既知の鉱物(白雲母)が標準試料として使われます。Hの検出下限は1at%程度です。試料は平坦なものが必要で、分析できる試料の大きさは10mm x 5mm以上です。検出できる深さは材料に依存しますが数百nm程度です。 HFS分析はRBS分析と同じ装置を用いて行われます。下図にHFS分析のレイアウトを示します。RBS分析では、試料に対して垂直方向からHeイオンを入射しますが、HFS分析では、試料表面に対して15度の方向から照射されます。HFS分析の検出器は、入射イオンビームの軌道線上を基準として30度の方向に配置されます。このように、Hを求めるHFS分析と組成を調べるRBS分析では、試料に対する入射角や検出器の最適な配置が異なるため、それぞれ別条件での測定が必要となります。 尚、H分析と同時に、後方に配置された160度の検出器によってHeイオンの電流量が測定され、試料に加えた電流量の規格化に使用されます。

HFS分析の検出器レイアウト

HFS分析の検出器レイアウト
Si基板上のSiN薄膜を分析したRBS、HFSスペクトルを下記に示します。 SiとNの濃度はRBSから、H濃度はHFSを用いてそれぞれ測定されます。理論モデルとそれぞれの測定スペクトル間に良い一致が得られるまでフィッテングが行われ、各元素の濃度が求められます。

SiN薄膜のRBS/HFS 分析例

SiN薄膜のRBS/HFS 分析例

はじめに

窒化ガリウム(GaN)はパワーデバイスの材料として盛んに研究・開発が進められています。近年、GaN基板を用いた縦型バイポーラトランジスタの研究の中でMgのイオン注入でp型形成が試みられているが、Mgが活性化しないなどの課題があります。ここでは、Mgのイオン注入によるGaN結晶のダメージと熱処理後のダメージの低減状態をラザフォード後方散乱分析(RBS)のチャネリング法により評価しました。
チャネリング法は、He(ヘリウム)イオンを結晶軸方向に沿って入射させることにより、結晶の乱れを検出することが可能で、結晶状態の定量的評価に威力を発揮する手法です。GaNにMgをイオン注入しアニール前後でのダメージを測定、SIMS分析によるMg分布と比較しました。

RBSによるMg注入GaN結晶のダメージ評価

ラザフォード後方散乱法は、高速(2MeV)のHeやプロトンイオンを試料表面に照射すると試料を構成する原子と衝突、弾性散乱される。この反跳してきたHeイオンのエネルギーと量を計測することで試料を構成する元素の組成や深さ方向の膜構成を知ることが出来る手法です。結晶軸に沿ってHeイオンを入射させると完全結晶の場合、Heは試料原子とほとんど衝突せず散乱がありません。これをチャネリング法といいます。このチャネリング法を組み合わせると原子の結晶格子からのずれを調べることができ、結晶性の評価を行なうことが出来ます。RBS/チャネリング法では、結晶格子からのずれを定量的に評価でき、TEMなどの欠陥観察と併用することで詳細な結晶性評価が可能となります

窒化ガリウム(GaN)はパワーデバイスの材料として盛んに研究・開発が進められています。近年、GaN基板を用いた縦型バイポーラトランジスタの研究の中でMgのイオン注入でp型形成が試みられているが、Mgが活性化しないなどの課題があります。ここでは、Mgのイオン注入によるGaN結晶のダメージと熱処理後のダメージの低減状態をラザフォード後方散乱分析(RBS)のチャネリング法により評価しました。 チャネリング法は、He(ヘリウム)イオンを結晶軸方向に沿って入射させることにより、結晶の乱れを検出することが可能で、結晶状態の定量的評価に威力を発揮する手法です。GaNにMgをイオン注入しアニール前後でのダメージを測定、SIMS分析によるMg分布と比較しました。

試料の概要

Mg注入条件;
・エネルギー;150keV
・ドーズ量;1E16及び5E15at/cm2, アニール条件;
・1230℃,窒素雰囲気,1分

図1にチャネリング法によるRBSスペクトルを示す。注入直後では注入のRp付近を最大としてGaの強度の増加がみられ、結晶ダメージが検出された。アニール試料では強度の減少が見られ、結晶の回復が確認された。Ga強度から欠陥の量を算出した。(表1)

図2、3はSIMSによるMg分布と同時にプロットしたものである。SIMSでは、アニールによりピーク濃度の減少と表面側へのMgの偏析が見られる。

図1

図1

表1

試料Ga defect
1E16注入2.40E+17
1E16アニール1.00E+17
5E15注入8.90E+16
5E15アニール1.50E+16

図2

図3

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