TOF-SIMS (飛行時間型二次イオン質量分析)

飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)は、一次イオンのパルスビームをサンプル表面に集束させ、スパッタリングプロセスで二次イオンを生成する表面分析技術です。これらの二次イオンを分析すると、表面に存在する分子種、無機種、および元素種に関する情報が得られます。

非常に表面に敏感な手法であり、全元素同時測定。分子の情報を優れた感度で提供可能。

定量分析検出感度化学結合状態破壊測定空間分解能/ビーム径深さ分解能
一部、可能1E7-1E11at/cm2可能基本的には非破壊0.2μm1-5 単原子層

TOF-SIMSはこんな用途に便利な手法です

TOF-SIMSの別の呼び名であるスタティックSIMSからもわかるとおり、表面の状態を壊すことなく固体表面の定性を行なえる手法です。原理上は有機物・無機物に限らず固体であれば、何でも測定対象となり得ます。また、導電物、絶縁物を選ばずに測定が可能です。材料表面の化学組成や構造の解析、微量成分の同定、微小部における定性分析や特定の化学種の分布観察など、様々な表面の問題を解決への応用が出来ます。しかし、検出している深さ(脱出深さ)が数単原子層のため、得られるのは極表面のみの情報に限定されるという点を解析時には考慮しなければなりません。

以下に代表的な応用例を示します。
1)表面処理したポリマーの評価
2)共重合体の化学構造評価
3)表面コンタミ成分の定性
4)表面の変色、しみ、異物などの定性(特に、異物が非常に薄い場合に威力を発揮)
5)積層ポリマー膜界面の添加物や不純物の偏析評価(断面作成などの試料作製法を併用)

主な応用分野

応用分野(試料)測定対象
半導体ウエハ表面汚染、異物、洗浄残渣、化学処理の調査、ベベル部の汚染、エッチング残渣、リソグラフィ他
LCD、有機EL液晶、配光膜、カラーフィルター、しみ原因
ディスク関連ハードディスク潤滑剤、潤滑剤末端基の測定や潤滑剤膜厚、保護膜、ヘッド部の汚染、異物
プリント基板、
フレキシブルプリント基板
はんだ・ボンディング不良原因、変色、付着物や異物
機能性ガラス曇り原因、コーティング膜不良、異物の定性、洗浄調査、洗浄残渣、ぬれ性調査
高分子離型剤・界面活性剤・剥離剤ほか添加剤の定性、表面存在比較、混合剤の分布、膜剥離の原因調査、接着不良調査、表面しみ評価、多層膜の断面測定
ライフサイエンス毛髪断面の処理剤浸透調査、生体試料表面の化学物質分布調査
その他各種固体材料の密着性調査、剥離調査、表面親水性・撥水性比較、微量金属の表面分布

主な応用例

– 有機・無機材料の表面特徴の測定
– 表面に存在している物質の面内分布測
– 汚染の定性 ( < ppm)
・元素
・分子
– 欠陥・不良測定
・粘着性
・接着面
・コーティング
– 洗浄工程の評価 (QA/QC)
– しみ、変色、曇りの特定

SIMSの定義(分析モード)

SIMSの定義(分析モード)

飛行時間型SIMS: 基本原理

典型的データ (シリコンウエハの場合)

典型的データ

シリコンウエハ – 高質量分解能

典型的データ(PET)

典型的データ(データ取得方法)

アルミナ-ジルコニア-シリカ材料のTOF-SIMSイメージング(2つのモード)

特長と制約

TOF-SIMSは優れた感度であると同時に最表面に敏感に、全元素及び分子の測定ができる手法である。

特長
– 非常に薄い(単原子層以下)有機膜や汚染の元素や分子情報を得られる
– 定性測定
– ppm レベルの検出下限
– 微小領域測定 (0.2 mm)が可能で、かつマッピング測定が可能
– 絶縁物、導電物質両方の測定
制約
– 場合により、決定できない有機情報がある。
– 試料が真空に導入される。(超高真空内での測定)
– 時に、表面に敏感すぎる。(表面より下の情報が不鮮明になる)

応用例1)フラットパネル TFT上の残渣

人毛トリートメント剤の分析

目的:人毛中に化学処理剤がどの程度浸透しているかと知る。

実験:●人毛を化合物に浸す。  ●髪の毛の断面作製  ●TOF-SIMSによるイメージング測定

化合物:- Quaternary amine or QAS (dimethyldidodecyl-ammonium bromide)

TOF-SIMSは試料取り扱いに注意が必要です。

「表面」を測定する全ての手法にとって、試料の取り扱いは重要ですが、特に、TOF-SIMSにとっては、試料の取り扱いによって測定対象を変化させて間違った結果が導かれる可能性があります。それはなぜでしょう?

これは、二次イオンの脱出深さ(情報深さ)が非常に浅いことに起因します。少ないイオンビーム量で試料表面に照射してもスパッタリングのような大きな破壊は起こらず、分子の脱離のような現象が起こり、二次イオン放出に繋がります。つまり、最表面に位置する原子や分子のみしか真空中に放出されないということになります。そのため、試料の取り扱い(前処理、切断、保管方法、輸送方法など)を誤ると、汚染を誘発し、測定対象の信号が汚染によって埋もれてしまう可能性があります。

さて、これらの表面汚染は物質の同定に影響を与えるだけでなく、物質の面内分布を見る場合にも表面汚染は大きく影響を与えます。汚染物質は一般的には対象物質と異なるので、TOF-SIMSの特徴である質量高分解能条件によって汚染からの信号と対象物質の信号を分離できるのではないかと、考えるかもしれません。しかしながら、これも分布などを測定する上で問題となります。TOF-SIMSでは、質量分解能と空間分解能の両方を同時に最適化することは原理上、困難です。(これについては、今後豆知識で取り上げる予定です。)装置の原理上、質量分解能をあげると、空間分解能は低下し、逆に空間分解能をあげると、質量分解能が低下します。そのため、面内の分布を知りたい場合、試料取り扱いによって汚染が表面に存在してしまうと、測定対象となる信号の微細な位置情報や面内分布情報と、ハイドロカーボンなどの汚染の信号を分離できず、面内情報が不鮮明になり、間違った解釈をする可能性があります。

空気中を搬送する限り、空気環境からの吸着汚染、特に、ハイドロカーボンは避けられません。しかし、正しい試料取り扱いをすれば吸着の汚染を最小限にでき、得たい情報を正しく検出することができます。 また、最新のアルゴンクラスターイオン照射を応用することで、表面のハイドロカーボンのみをスパッタ除去して、その下に存在する試料本来の情報をより鮮明に検出できると期待できます。

生物組織中の異物の同定(BN1505)

生体組織中に取り込まれた異物や介在物などを分析するのは容易ではありません。それは組織試料のサイズが数ミクロンオーダーになるためです。有機化合物成分を測定するのによく利用される液体クロマトグラフ-質量分析(LC-MS)の場合、切開した細胞組織ではしばしば感度不足に陥ります。それに対して、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)は切開した細胞組織を直接観察することが出来る分析手法であり、数ミクロンサイズの領域のみから質量スペクトルを得ることが出来る能力を持っています。

本例では、腎臓に生じた異物をクライオマイクロトームで断面加工して測定した例を紹介します。異物のTOF-SIMSスペクトルでは、質量m/z331で顕著な分子の存在が確認できます。このイオンはプロドラッグであるXemilliofiban(Figure1参照)のエステル分解した代謝物の質量と一致します。 Figure2に示すイオンイメージは、m/z331のピークを含む10の代謝物ピークから作成したものです。異物の光学顕微鏡像から異物とTOF-SIMSの代謝物イオンイメージとの相関がよく分かります。

*プロドラッグとは;そのままでは不活性或いは活性の低い形態で投与される医薬品のことをいう。プロドラッグは投与されると、生体による代謝作用を受けて活性代謝物へと変化し、薬効を示す。
*Xemilliofiban;血液凝固を防止する薬で、血小板に働きかける薬。

生物組織中の異物の同定(BN1505)

TOF-SIMSの正イオンスペクトルを示す。(a) Xemiliofibanプロドラッグ (b) エステル分解した代謝物 (c) 実際の異物

(a) 異物断面の光学顕微鏡像 (b) 10の代謝物ピークから生成した異物のTOF-SIMSの正イオンイメージ

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