XRDはこんな用途に便利な手法です-1:相同定

XRDは他の多くの元素分析手法と異なり、大気中で比較的簡便に分析できるのが大きな特徴です。試料に対する制約として、結晶性である必要はありますが、粉末、バルク試料、ウェハー、さらには非常に薄い膜も評価可能です。そのため、目の前にある試料が何かわからない場合にまず分析してみることにも実は適している場合が結構多くあります。
不明物質を目の前にした際、多くの場合SEM-EDSやXRFなどで、まずその組成を調べるということから着手する場合が多いですが、XRDの場合には元素情報だけではなく、その状態(結晶状態)がわかるため、プラスαの情報を引き出すことが可能な場合が多々あります。
以下は未知の鉱物材料の測定例ですが、試料が様々な鉱物物質を含んでいる事が確認されました。そのため、例えば、試料表面に何かしらの原因で析出したような物質、フィルターに捕捉された異物(酸化物、水酸化物、水和物、etc.)などもXRDで実は有効な情報を引き出すことができる場合があります。

XRDの原理及び特徴

結晶試料中にX線が入射すると、特定の方向に強くX線が回折される現象が生じます。図のような格子面からの回折を考えた場合、A面で回折されたX線とB面で回折されたX線の光路差は2d sinθとなります。この値が、X線の波長の整数倍であった場合、回折X線の位相がそろい強い強度のX線が検出されることになります。

XRDの原理及び特徴
X線回折測定では、ブラッグの回折条件を満たし回折されたX線を調べることにより、以下のようなことが行えます。 – 不明物質の同定 – 結晶子サイズの決定 – 結晶方位評価(配向性評価) – 結晶化度測定 – 応力評価(圧縮、引っ張り) – エピ材料における高分解能XRDによる格子緩和、格子ひずみの評価

分析例

XRDはこんな用途に便利な手法です-1:相同定

TiN薄膜の結晶子サイズのシミュレーション結果

XRDはこんな用途に便利な手法です-3:ひずみ評価

XRDは、結晶構造を反映した情報を高感度で取得できる手法です。結構構造に何らかの影響で変化があった場合には、それを敏感に検知できます。たとえば、ある物質中に、他の原子が入り込み、それが格子位置に置換されることにより、結晶格子が伸び縮みした場合、その変化量を調べることにより、もとの結晶構造からどの程度歪んだかを調べることが可能です。また、材料によっては、入り込んだ原子の濃度を算出することも可能です。

SiGeの濃度が変わった場合の評価事例

6%と10%の差異が検知可能であることがわかります。参考データは、SiGeの濃度評価の事例ですが、他の化合物半導体の組成を調べることや、異なるプロセスで成膜した材料の内部ひずみを試料間で比較することなどもこの手法で可能です。
SiGeの濃度が変わった場合の評価事例

XRDはこんな用途に便利な手法です-4:定量分析

XRDで最も利用頻度が高い評価方法は、相同定となり、定性的な評価方法としての使われかたとなります。しかしながら、XRDでは定量分析も行うことが可能です。

歯科用セラミックス材料の定量分析例

定性分析を行ったあと、データベースとの照合により、WPF(Whole Pattern Fitting)法により解析を行います。この方法は、各相の比率を求める手法であり、個別の元素濃度の定量ではない点に、ご注意ください。XRDのチャートの解析より比較的簡便に行える方法ですが、試料がきわめて強い配向性を持つ場合などは誤差が大きくなるため注意が必要な点もあります。
歯科用セラミックス材料の定量分析例

はじめに

今回は、XRDによるひずみ評価の事例を紹介いたします。XRDは一般には、未知の物質の評価(相同定)に使用されるケースが多いですが、高精度に面間隔を評価できることから、もともとの格子面間隔からのずれを評価することにより、ひずみに関しての情報を引き出すことができます。紹介させていただく事例は、Si中にイオン注入されたCが、格子位置に置換されることによるわずかなひずみを調べ、その置換量を決定することができる、というものです。この手法を用いれば、例えば3元系の化合物半導体の組成を調べる、といったこともXRDで可能です。

HR-XRDによるSiにおける格子位置カーボンの評価(AN460)

半導体技術における新たな技術として、シリコンへのカーボンをイオン注入することにより、シリコン格子において引っ張り応力発生させ、n-MOSFET半導体デバイスの性能を向上させるというものがあります。望ましい効果を生むために、炭素原子はシリコン格子において置換するための、代替原子である必要があります。

HR-XRDはこのような置換カーボンの割合を測定するのに用いることができ、またSIMSとの組み合わせにより、複雑な、多層カーボン濃度プロファイルを調べることも可能です。
ドーパントまたは不純物が置換型として一つの結晶格子に加えられるとき、格子はドーパント原子の存在によって歪ます。Si格子の場合、炭素原子がSi格子原子より小さいので、結果として、格子位置に炭素原子が存在することにより、引っ張り応力を生じます。
この応力はSi格子の間隔を変え、そして、間隔のこの違いをHR-XRDによって調べることが可能です。

下記の図に示されているのは、Si格子中に置換されたそれぞれ0.3%、0.6%および1.2% のCがドープされた厚さ30nmの層を持つSiウェハーからの理論的なHR-XRDのスキャンデータです。69.3度のピークはSi格子からのものであり、一方、より高い角度の幅広いピークは置換Cが存在するSi格子からの回折ピークを表します。炭素原子がSi原子より小さいので、格子は引っ張り応力の下にあり、そして、回折ピークは右にシフトします。
Cの量が増加すると、応力も増加し、XRDピークはより高い角度にシフトします。

HR-XRDによるSiにおける格子位置カーボンの評価(AN460)

イオン注入とアニーリングの研究の一つの目標は、異なるイオン注入とアニール条件下におけるSi格子サイトに置換されたCの量を決定することです。SIMS分析は、試料中の全C濃度(置換および格子間の両方)を測定することができ、一方HR-XRDは置換されたCのみを測定します。HR-XRDによって得られたC濃度を、SIMSによって得られたC濃度で割ることにより、置換された全イオン注入Cの割合を簡単に計算することができます。
上記のケースは、Si中へのCのイオン注入を単純なシステムで理解しやすいようモデル化されたものです。PまたはAsのような、他のイオン注入種が加えられる場合はかなり複雑になります。
このような場合は、多層XRDシミュレーションが必要とされますが、EAGは、そのようなシミュレーションも提供することができます。しかし、XRDデータだけで正確にそのようなサンプルを説明するのに十分でない場合があり、そのような際には、SIMS、TEM、また電気特性データといったものが、XRDシミュレーションとの組み合わせに、必要となってきます。

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